マガダン州の道路一覧が読みたくてロシアの官報APIを叩いた

マガダン州の地図を眺めてたら、道路に番号が振ってあるのが気になった。R504コリマ街道みたいな有名どころは日本語でも出てくるんだけど、その脇から伸びてる細い道が誰の持ち物なのかが分からない。連邦の道なのか、州の道なのか、町の道なのか。

で、調べ始めて分かったんだけど、この階層の一覧って日本語の資料がまず無い。英語でもほとんど出てこない。結局ロシア語の法令を直接読むしかなくて、読んだら思ってたのと全然違うものが出てきた。

道路の階層

ロシアの公道は持ち主で4段に分かれてる。連邦が持つもの、連邦構成主体つまり州や自治管区が持つもの、市町村をまたぐもの、市町村の中のもの。日本でいえば国道、県道、市町村道の並びに近い。

で、この2段目と3段目が曲者だ。連邦の道は連邦政府が一括で告示を出すから見つけやすいんだけど、州の道は州ごとに州政府が決定を出す。つまり連邦構成主体の数だけ別々の一覧が存在して、それぞれ別の場所に置いてある。横断的にまとめたデータベースは、少なくとも公開されてる範囲には無い。

記号

一覧を開くと、道路1本ごとに2種類の番号が付いてる。たとえば44 ОП РЗ と 44К-5 みたいに並ぶ。

前者が分類の記号だ。頭の44は地域のコードで、全ロシア行政区画分類の番号が入る。44がマガダン州、77がチュクチ自治管区。ОПは общего пользования の略で、一般に供用してる道路という意味。РЗが регионального значения で州にとって重要な道路、МЗが межмуниципального значения で市町村をまたぐ道路を指す⁽¹⁾

後者が個別の路線番号で、州の道路がКで始まって44К-5、市町村をまたぐ道路がНで始まって44Н-1になる。この2つを見れば、番号だけでその道が誰の管理下にあるか分かる仕組みだ。

一次資料

ロシアの法令の公式な置き場は publication.pravo.gov.ru で、ここに読み取り専用のJSON APIがある。認証もキーも要らない⁽²⁾。日本のIPから素通しで読める。

使う順番はこう。まず /api/PublicBlocks/ で発行主体のブロック一覧を取る。大統領、連邦議会、政府、裁判所、そして subjects つまり地域が並ぶ。次に /api/SignatoryAuthorities?block=subjects を叩くと、地域の発行機関が3831件、GUID付きで返ってくる。ここから目当ての州のGUIDを拾って、/api/Documents に SignatoryAuthorityId と期間を渡す。

httpの罠

ここで1回詰まった。ブラウザで publication.pravo.gov.ru を開こうとしても、いつまでも読み込み中のまま返ってこない。サイトが落ちてるのかと思って何日か放置した。

落ちてなかった。ロシアが日本を遮断してるのかと思ったのだけど、そうではなくて、単に443番ポートが日本から見えないだけだ。80番は開いてる。つまり http:// で叩けば0.5秒で200が返る。ブラウザはHTTPSに自動で昇格するから、URLバーに手打ちしても勝手にhttpsになって沈黙する。スキームを明示してhttpで叩くのが正解。

もうひとつの罠がNameパラメータだ。これは部分一致しない。дорог つまり道路と入れても0件で返ってくる。キーワード検索には使えないので、機関別と期間別で全部列挙してから、絞り込みは手元でやることになる。PageSizeも任意の数を受け付けなくて、5でも20でもバリデーションエラーになるから、指定しないで既定に任せるのが無難だった。

あと、商用の法令データベースである docs.cntd.ru だけは本当にIPで遮断されてる。TLSの前のTCPハンドシェイクが成立しないので、証明書を無視するオプションを付けても意味がない。ここに収録されてる文書が要るときだけは別の出口が要る。逆に言うと、公式の一次情報は普通に読めるので、大半の用は足りる。

マガダン州

で、告示を開いて数えると、州の道路が10路線、市町村をまたぐ道路が13路線だった。

州の道路のほうを見て笑ってしまった。ほとんどタラヤ町の中の道だ。ゼリョーナヤ通りが1.120km、コムソモリスカヤ通りが0.490km、レーニナ通りが0.200km。極めつけは消防署の前からタラヤ・サナトリウムの門までの0.300kmで、これが44К-21として州の道路に登録されてる。300mだ。

他はマガダンのソコル空港へ向かう1.344kmとか、子ども保養センターへの5.811kmとか、その程度の規模が並ぶ。いちばん長いのがタラヤ町への取り付け道路の31kmで、これが州道の最長になる。日本の県道の感覚で見ると相当に小さい。

実際に州を移動する道は、市町村をまたぐ区分のほうに入ってる。パラトカからクルを経てネクシカンへ向かう線が472km、ゲルバとオムスクチャンを結ぶ線が257km、マガダンからバラガンノエを経てタロンへ向かう線が151km。こっちは1本が数百kmある。県が管理する道の一覧を開いたら1本472kmだった、と思うと規模の感覚が狂う。

書き換わる距離

面白かったのが、距離が改正のたびに書き換わることだ。さっきのパラトカ-クル-ネクシカン線は、474kmから473.413km、472.908km、また473.413km、そして472.177kmと動いてる。

これが測り直した結果なのか、区間の定義が変わったのか、単に別の資料から転記しただけなのかは、決定の文面だけだと判断できない。ただ最新の決定だけ見ていると、その値がずっとそうだったように見えてしまう。追いかけるなら改正のたびの値を並べて眺めたほうがいい。マガダン州の場合、根拠になる決定は2009年10月から2024年4月まで18本あった。

チュクチ

チュクチ自治管区のほうは路線数が少なくて、77К-001から77К-009までの10本しかない。ところが表にすると76行になる。1本の路線を区間ごとに割って、区間ごとに舗装の種類と距離を持たせてるからだ。マガダン州の告示よりだいぶ細かい。

長いのはビリビノからコムソモリスキーを経てペヴェクへ向かう637.545kmと、エグヴェキノトからヴァルニスチイを経てコムソモリスキーへ向かう591.024km。等級はⅣとⅤばかりで、高規格の道は1本も出てこない。

冬道

チュクチの告示でいちばん面白いのが冬道の扱いだった。зимник と呼ばれるやつで、凍った季節にだけ道として成立する区間のことだ。区間ごとに、そのうち何kmが冬道なのかが書いてある。

77К-008という路線は、全長407.2kmがまるごと冬道になってる。つまりこの路線は夏には存在しない。77К-006も339.832kmのうち124.2kmが冬道で、こっちは通年の区間と冬だけの区間が混ざってる。

地図アプリで見ると、どっちも普通に線が引いてある。線の太さも色も他と変わらない。でも法令の表を見ると、片方は年間を通じて通れて、もう片方は凍らないと通れない。地図に線があることと、行って通れることは別だという当たり前が、数字で出てくるのが良かった。

カタカナに直す

地味に手間だったのが地名の表記だ。キリル文字のままだと日本語の文章に混ぜにくいので、全部カタカナに直したんだけど、これに決まった正解が無い。

Балаганное をバラガンノエとするかバラガンノーエとするか。Омсукчан をオムスクチャンとするかオムスクチャーンとするか。ロシア語のアクセントの位置を長音で表すかどうかで揺れる。地図帳によっても違うし、外務省の表記と学術書の表記が違うこともある。

結局、長音を省く方向で統一して、原綴りを併記する形にした。カタカナだけだと検索で元の資料に戻れなくなるので、ロシア語の列を残しておくのが実用的だ。あとから別の表記に直したくなっても、原綴りがあれば機械的にやり直せる。

ついでに言うと、この手の調べものでロシア語のサイトを検索するときは、検索語もキリル文字で書かないとほぼ何も出てこない。ローマ字転写で探すと英語の観光情報しか引っかからない。翻訳を通してでもいいので、現地語で投げるのが早い。

州政府サイトの探し方

公式APIで機関別に列挙する方法とは別に、州政府のサイトを直接見る手もある。マガダン州なら magadan-gov.ru に決定の全文が載ってて、こっちのほうが読みやすいことも多い。

探すときのコツは、道路そのものではなく「перечень автомобильных дорог」つまり自動車道の一覧という定型句で引くことだ。この種の告示はどの州もだいたい同じ言い回しで出てくるので、州名と組み合わせれば当たる。дорога で検索すると交通事故のニュースが山ほど出てきて話にならない。

見つけた文書は必ずURLと日付を控えておく。州政府のサイトは改組でURLが変わることがあるし、古い決定が新しい決定に置き換えられて消えることもある。路線の一覧と一緒に根拠の文書のURLと日付を控えているのはそのためで、あとから検算するときに効いてくる。

連邦道との関係

州の道路の一覧を読んでると、連邦道との接続点が頻繁に出てくる。マガダン州でいえばR504コリマ街道が背骨で、そこから枝分かれする形で州の道路が定義されてる。

チュクチの表がもっと露骨で、区間の定義が「77К-004の4km地点から77К-003の3km地点まで」のように、他の路線のキロ程を基準に書かれてる。道路網の中の相対位置で場所を指定する書き方で、絶対座標が一切出てこない。地図に落とすには、まず基準になる路線の起点を特定しないといけない。

逆に言うと、この書き方だからこそ道路網としての構造が読める。どの路線がどの路線から分岐してるかが文面から分かるので、幹線と枝の関係を組み立てられる。座標の羅列より情報量が多い場面もあるということだ。

分かったこと

まとめると、極東ロシアの道路を調べるなら公式APIをhttpで叩くのが最短で、商用DBは諦めて州政府のサイトを直接読むのが実用的、ということになる。ロシア語が読めなくても、道路の一覧は名前と番号と数字がほとんどなので、翻訳をかければどうにかなる。

あと、日本語で読める形にした一覧が本当に無いということも分かった。ロシアの道路番号を検索しても、出てくるのは大陸横断ルートの旅行記か、連邦道の一覧を機械翻訳したものくらいだ。州のレベルまで降りると誰も訳してない。マガダン州の300mの道が州道として登録されてるという情報に需要があるかというと、たぶん無い。でも調べた本人としては、極東の町の中の通りに1本ずつ番号が振られてる事実のほうが、コリマ街道の話よりよっぽど面白かった。

他の州も同じ手順で引けるはずなので、気が向いたらサハ共和国あたりを見てみたい。あそこは冬道の割合がもっと高いはずだ。